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3Dプリンター用のフィラメントとは?素材ごとのメリットや造形方式を解説!

3Dプリンター用のフィラメントとは?素材ごとのメリットや造形方式を解説!

FDM方式の3Dプリンターでは、フィラメント(filament)という素材を溶かし、層状に積み重ねることで造形します。3Dプリンターを使う際には、「どんなフィラメントを選び、購入するべきか」を考えなくてはなりません。そこで、フィラメントの種類ごとのメリット、最適なフィラメントの選び方のポイントを解説します。

3Dプリンター用のフィラメントって何?選ぶポイントは?

3Dプリンター用のフィラメントって何?選ぶポイントは?

フィラメントは、「FDM方式(熱溶解積層方式)」3Dプリンターでデータを出力するために用いる素材で、細長いスパゲティのような糸状の樹脂素材がリールに巻きつけてあります。

3Dプリンターで造形する際に、精度強度、成功率を向上させるには、適切なフィラメントを選ぶことが重要です。機種によっては専用フィラメントもありますので、使用する3Dプリンターに使えるフィラメントなのかどうかはもちろん、作りたい造形物に必要な仕様を満たせるか、適切な後加工ができるかといった観点も必要です。

フィラメントの種類

フィラメントの種類

フィラメントには、さまざまな種類があります。代表的なものとその特徴を詳細に紹介します。

PLA樹脂

PLA樹脂は「Poly-Lactic Acid」の略語で、日本語で「ポリ乳酸」と呼ばれる樹脂素材のことです。トウモロコシやジャガイモに含まれるデンプンなど、植物由来のプラスチック素材を原料にしているため、生分解性素材で環境にやさしいのが、PLA樹脂の特長です。造形中の独特なニオイが抑えられるのも、PLA樹脂のメリットのひとつです。

また、PLA樹脂は冷却時の収縮が少ない特性があります。成形時の素材が一様に収縮するため、ひずみや反りが起きにくく、安定して出力できます。一方で、高温に弱く、耐熱性や耐衝撃性には劣るという点には注意してください。

多くのFDM方式の3Dプリンターが、PLA樹脂に対応しています。PLA樹脂は扱いやすい素材なので、初心者でも安心して使えます。なお、FDM方式の3Dプリンターの課題として「積層痕が残りやすく、表面が滑らかな質感にならない」点が挙げられますが、色によっては比較的目立たないものもあると言われています。

ABS樹脂

ABS樹脂とは「アクリロニトリル(Acrylonitrile)」、「ブタジエン(Butadiene)」、「スチレン(Styrene)」の3種類の成分を組み合わせた素材で、一般的なプラスチック製品でよく使われている素材です。

ABS樹脂の特長としては、高い耐衝撃性があり、強度があるということ。また、耐熱性や耐摩耗性も、ABS樹脂の優れた点と言えるでしょう。自動車の部品、プラモデル・フィギュアのパーツなど、動作する仕組みを持たせたいものを造形する場合には、ABS樹脂がフィラメントに適しています。ABS樹脂は、多くのFDM方式の3Dプリンターで対応しているため、広い用途で使われています。

ただし、出力時には230℃~260℃程度の高い温度が必要となります。また、大きいサイズの造形物を作ろうとすると、反りやひずみが生じやすいという点でも、注意が必要です。

炭素繊維(カーボンファイバー)含有フィラメント

FDM方式のフィラメントとしては、上記のPLA樹脂やABS樹脂がよく使われています。その一方で、近年は、カーボンファイバーを配合したフィラメントも人気を呼んでおり、対応する3Dプリンターが増えてきています。

カーボンファイバーは、高強度で剛性に優れており、かつ、耐衝撃性や耐熱性も高いという特長があります。軽量で丈夫な造形物を作成できるため、航空機のパーツからテニスのラケットまで幅広く用いられています。

本記事内で紹介するナイロン樹脂やPETG樹脂、PLA樹脂の機能を高めるために、カーボンファイバーが配合されているものも出てきており、今後ますます注目が高まる素材になるでしょう。

ナイロン樹脂

ナイロン樹脂は、一般的には衣料品などの素材として有名ですが、さまざまな工業製品にも使用されています。

ナイロン樹脂は耐衝撃性や靭性(じんせい)、耐薬品性などがあり、金属に劣らない耐久性があります。高機能で汎用性があるため、試作品テストから最終製品まで幅広い用途で使用されています。

PETG樹脂

PETG樹脂は、ペットボトルに使われているPET(ポリエチレン・テレフタレート:Poly Ethylene Terephthalate)が改良されたもので、化粧品の容器などの高機能なボトルに使われています。

PETG樹脂は、衛生面や耐熱性に優れており、靭性(じんせい)と強度が求められる造形物に適した素材です。また透明度が高く、ランプシェードなどの造形にもおすすめです。

TPE樹脂

TPE樹脂とは、ゴムのような弾性を持つプラスチック素材のことで、「熱可塑性エラストマー」(Thermoplastic Elastomers)とも呼ばれています。常温ではゴムと同様の弾性を示しますが、高温で加熱することで軟化する素材です。圧縮・押出・射出といった加工を行うこともできます。

人体への安全性が確認されているため、医療分野でも利用されていますが、ほかのフィラメントに比べて、価格が高い傾向にあります。素材として用いる場合には、コスト面で注意が必要です。

PPGW樹脂

PPGW樹脂とは、多くのプラスチック製品で使われているポリプロピレン樹脂に、グラスウールを配合した素材のことです。

ポリプロピレン樹脂は、酸・アルカリ・鉱物油などへの耐薬品性に加えて、耐熱性や加工性も備えていますが、収縮率が大きいため、3Dプリンターでの造形が難しいとされてきました。そこで、グラスウールを配合することで、収縮率を大幅に低減し、3Dプリントを可能にしたのが、PPGW樹脂です。

PPGW樹脂は、高強度でしなりがあるため、壊れにくく、折れにくいというメリットがあります。一般的な塗装やメッキもできるので、汎用性の高い素材と言えるでしょう。

SMP樹脂

SMP樹脂は「形状記憶ポリマー(Shape Memory Polymer:SMP)」とも呼ばれる素材です。55℃以上に温めると柔らかくなって形状を変更でき、さらに再び温めれば、造形した時の形状に復元できるという特長があります。形状変化を利用してウェアラブルデバイスなどスマートテキスタイルとして応用されています。

また、層間強度が高く、印刷時のニオイや収縮が少なく、生体適合性が高いため、「ギプス」「メガネ」など直接肌に触れる造形物をプリントするのに適しています。

ASA樹脂

ASA樹脂とは「アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸エステル重合物(Acrylate Styrene Acrylonitrile)」のことです。ABS樹脂と似た物性を持つプラスチック樹脂ですが、ASA樹脂のほうが耐候性に優れているため、屋外で使用した場合にも、変形、変色、劣化などの変質を起こしにくい特長があります。

しかし、ASA樹脂はABS樹脂と同様に、反りや変化が生じやすいというデメリットがあります。ASA樹脂を使う際には、素材が剥がれないように、プラットフォームにスティックのりを塗るなどの対策が必要となります。

エンジニアリングプラスチック

エンジニアリングプラスチックとは、一般的なプラスチックに比べ、高い強度と耐熱性を持ったプラスチックのことをいいます。熱に強くて屋外でも使いやすいポリカーボネート樹脂(PC樹脂)や、成形時の耐熱性や強靭性に優れたポリアミド樹脂(PA樹脂)などが、エンジニアリングプラスチックに含まれます。

フレキシブルフィラメント

フレキシブルフィラメントとは、PBAT樹脂(ポリブチレンアジペートテレフタレート)や、TPU樹脂(熱可塑性ポリウレタン)のように、柔軟性があるフィラメントのことをいいます。弾性の富むフレキシブルなフィラメントなので、滑り止めやグリップなどの造形に適しています。

3Dプリンターの進化

多様なフィラメントのニーズの高まりに合わせ、メーカー純正素材のフィラメントだけでなく、サードパーティー製のフィラメントでも使用できるよう、造形条件を設定している3Dプリンターも増えてきました。

また、粒状のペレット材からフィラメントを作ることもできるようになり、さらにペレット式3Dプリンターも登場したことで、フィラメント化せずに、ペレットを押出成型ノズルから噴出することで、直接造形できるようになりました。粉末状の樹脂やフィラメントと違い、素材の幅が広がったため、ものづくりの可能性が広がっています。

フィラメント取り扱いの注意点と保管方法

フィラメント取り扱いの注意点と保管方法

フィラメントの性質を保つためには、取り扱いの注意点と適切な保管方法があります。

フィラメント取り扱いの注意点

フィラメントはもろいので、交換時などには落下や衝撃に注意が必要です。また、使用前にはフィラメントを目視で確認し、異常がないかを確認しましょう。

フィラメントの保管方法

フィラメントは不適切な方法で保管すると、樹脂の重合が進んでしまい、造形不良が発生する確率が高くなってしまいます。次のような適切な保管方法で使用期限内に使いましょう。

高温や直射日光を避け、冷暗所に保管する

フィラメントは空気中の水分を吸収すると、湿気を帯びてしまいます。フィラメントボックスや口の締まる袋など密閉できる環境を作り、シリカゲルや乾燥剤を一緒に入れて、湿気を防ぎましょう。

異素材が混ざらないよう注意する

複数のフィラメントを保管する場合、素材ごとに保管することで混ざりあうリスクを軽減できます。

適切なフィラメントを選ぶなら、比較検討ができる「3D-FABs」

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たくさんの種類のフィラメントから適切なものを選ぶには、3Dプリンターについての豊富な経験と確かな知識が必要です。たとえば、3Dプリンターはどのような仕組みで造形するのか、どのようにしてデータを作るのか理解しておく必要があります。3Dプリンターの仕組みについては「3Dプリンターの仕組みについて、データ作成から完成まで解説」、データについては「3Dプリンター用のデータと切削加工のデータ作りはどう違う?」をご覧ください。

また、光造形3Dプリンター金属3Dプリンター大型3Dプリンターといった3Dプリンターの種類やサポート材がいるかどうかも検討が必要です。業務用となると3Dプリンターの価格は高いため、外注を検討することもあるかもしれません。外注依頼する際のコツは「3Dプリンターでの造形を依頼するには?外注するメリットや依頼方法」、ソフトやサービスについては「3Dプリンター用のソフトやサービスにはどんなものがある?」をご覧ください。

いろいろと検討する必要があるので、不安を感じる方も多いでしょう。「3D-FABs」では、材質の提案や設計変更の相談についても、熟練のスタッフがしっかりサポート。初心者でも、3Dプリンターのノウハウを得ることができます。「『3D-FABs』を使えば、誰でも3Dプリンターのノウハウを学べるのか?? 初心者ライターが検証」では実際に初心者が3Dプリンターを使いこなす様子をレポートしています。

学べる見積サイト・3Dプリントソリューション「3D-FABs」では、さまざまな素材について、比較検討が可能です。造形のシミュレーションや試算といったサービスを無料で提供しているので、コスト面も含めて、どの素材が適しているかの判断に、「3D-FABs」はきっと役立つはず。どのような試算ができるのかさらに詳しく知りたい方は「3Dプリンター出力サービスの試算なら『3D-FABs』。5つの強み、ご利用の流れまで解説」をご覧ください。

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写真/Getty Images