素材としてのTPU(熱可塑性ポリウレタン)樹脂は、工業部品や市販されているスマホケースなど多岐にわたる用途で利用されている樹脂です。また、3Dプリントの材料としても利用することができます。
この記事では、TPU樹脂の特性をはじめ、3Dプリンターでの使用時に留意すべきポイントについて詳しく解説します。TPU樹脂の特性を理解し、適切に活用することで、高品質な製品作りを実現しましょう。
TPU樹脂とは
素材としてのTPU樹脂とは
素材としてのTPU樹脂は、熱を加えると柔らかくなり、冷やすと再び硬化する特性を持っています。この性質により複雑な形状の製品を作ることが容易です。また、耐摩耗性や耐油性に優れており、機械的強度も高いため、さまざまな分野で重宝されています。
素材としてのTPU樹脂のもう一つの重要な特性は、その弾力性です。ゴムのような弾力性がありながらも強度を兼ね備えているため、スポーツ用品や医療機器、自動車部品など、多くの応用分野で使用されています。
例えば、スポーツシューズのソールや、医療用のチューブやカテーテル、自動車のダッシュボードや内装パーツなどに採用されています。
3Dプリンターの材料として用いる場合も、TPU樹脂は耐久性と柔軟性が求められる製品に適した素材です。
TPU樹脂の特徴
TPU樹脂の特徴を理解することで、適切な用途や3Dプリンターでの使用方法が明確になります。
TPU樹脂のメリット
・柔軟性と強度
素材としてのTPU樹脂は非常に柔軟でありながら、引っ張り強度が高い素材であり、衝撃吸収性や耐久性が求められる製品に適しているとされています。この特性は、特にスポーツ用品やスマホケースなどの用途において重宝されます。
・耐油性と耐薬品性
素材としてのTPU樹脂は化学薬品や油脂類に対する耐性を持つため、工業用の部品としても使用できます。例えば、自動車のホースやシール、工場の機械部品などに広く利用されています。
・透明性
透明色のTPU樹脂は透明度が高いため、透明なスマホケースやデザイン性の高いアクセサリーなど、美観が求められる製品にも適しています。
3Dプリンターで利用する場合
TPU樹脂を3Dプリンターで利用する場合、柔軟性を生かした機能的プロトタイプなどの造形に適していると言えます。また透明性・デザイン性を生かした製品や、衝撃吸収性を生かした緩衝パーツに活用できます。
TPU樹脂のデメリット
・吸湿性
素材としてのTPU樹脂は湿気を吸収しやすいため、吸湿した水分により、形状が変化してしまったりTPU樹脂の特性が影響を受けたりして、機械的強度や柔軟性が変化することがあります。
・加工の難しさ
TPU樹脂は、素材そのものは加工しやすいですが、TPU樹脂が持つ柔軟性や弾力性から、成形時・出力時に専用の設備が必要になることがあります。
3Dプリンターで利用する場合
3Dプリンターで利用する場合には、TPU樹脂の吸湿性が造形品質に悪影響を与える可能性があります。例えば、湿気を吸収すると、TPU樹脂のフィラメントが膨張し、造形時に気泡が発生しやすくなります。これにより造形品質が低下し、表面がざらつくなどの問題が発生することがあります。
また、加工の難しさから、造形中に変形してしまうことがあります。特に高速での造形や複雑な形状を造形する場合には、材料が正確に積層されず歪みが生じることがあります。押し出し機に絡まりやすいため、フィラメントの送り出しがスムーズに行えない場合があります。
TPU樹脂とその他ゴムのような特性を持つ材料との違い
ゴムのような特性を持つ材料には、TPU樹脂以外に、シリコン樹脂、TPE(熱可塑性エラストマー)樹脂、ゴムライク樹脂(アクリル系)などがあります。以下では一般的な材料としての特徴を紹介・比較していきます。
・シリコン樹脂
シリコン樹脂は高い弾力性と耐熱性を持っています。その為、キッチン用品や医療機器などに使用されます。一方で、製造コストが比較的高めかつ、機械的強度は持ち合わせていません。
・TPE(熱可塑性エラストマー)樹脂
TPE樹脂はすべての熱可塑性エラストマーの総称です。 TPU樹脂は厳密には「熱可塑性ポリウレタンエラストマー」といい、大別すればTPE樹脂の一種です。3Dプリンターのフィラメントとしては、TPE樹脂とTPU樹脂がありますが、TPU樹脂との一般的な違いとしては、TPU樹脂よりもTPE樹脂のほうが、柔らかく、弾力性に優れている点にあります。
・ゴムライク樹脂(アクリル系)
ゴムライク樹脂(アクリル系)は、主に3Dプリンターの材料として使われ、TPU樹脂のような熱可塑性樹脂に柔軟性を持たせたもので、加工性に優れています。
しかし、上記の素材は、TPUほどの機械的強度や耐久性は持ち合わせていません。例えば、ゴムライク樹脂(アクリル系)は短期間での使用や軽負荷の用途には適していますが、長期的な耐久性や高負荷の用途にはTPUの方が適しています。
ゴムのような特性を持つ材料の比較表
項目 |
TPU(熱可塑性ポリウレタン)樹脂 |
シリコン樹脂 |
TPE(熱可塑性エラストマー)樹脂 |
ゴムライク樹脂(アクリル系) |
---|---|---|---|---|
弾力性 |
優れる |
非常に優れる |
優れる |
中程度 |
機械的強度 |
高い |
中程度 |
中程度 |
低い |
耐久性 |
優れる |
優れる |
良好 |
劣る |
耐熱性 |
良好 |
非常に優れる |
中程度 |
中程度 |
耐薬品性 |
良好 |
優れる |
良好 |
中程度 |
材料の特性は、名称が同じでもメーカーによって異なりますので、材料の物性を確認して選定をしていきましょう。
3DプリンターでTPU樹脂の使用がおすすめできる場面
TPU樹脂は、その特性から以下のような用途での3Dプリントに適しています。
工業用ゴムパーツの造形
TPU樹脂の高い耐摩耗性と柔軟性を活かして、機械の部品や工業用のシールなどの3Dプリントに適しています。
例えば、機械のベルトやガスケット、ホースなど、耐久性と柔軟性が求められる部品の造形に適しています。
また、TPU樹脂は耐油性や耐薬品性を持っているので、化学工業や自動車産業など、過酷な環境下で使用されるパーツの製作にも適しています。
機能性試験用パーツ
柔軟性が必要な試作品や、製品の柔軟性や耐久性を試験するためのパーツの3Dプリントに適しています。
例えば、実際の使用環境をシミュレートして性能を評価する必要のあるスマホケースやウェアラブルデバイスのバンドの試験用パーツの作成に適しています。
軟らかいゴム製品の造形
スマホケースやウェアラブルデバイスのバンドなど、日常的に使用される軟らかいゴム製品のプロトタイプの3Dプリントにも適しています。
TPU樹脂で造形する際に留意するポイント
3DプリンターでTPU樹脂を使用する際には、以下のポイントに注意する必要があります。
湿度管理
TPU樹脂は吸湿性が高いため、フィラメントは乾燥した状態で保管し、造形前にはフィラメントを十分に乾燥させることが重要です。湿気を含んだTPU樹脂フィラメントは、造形中に気泡が発生しやすいため、造形品質の低下につながります。デシケーターや密閉された容器での保管が推奨されます。
造形速度
TPU樹脂は柔らかいため、高速で3Dプリントをすると溶けたフィラメントが十分に固まらず、引っ張りや変形が発生することがあります。造形速度を遅くすることで、フィラメントの引っ張りや変形を防ぎ、品質を向上させることができます。TPU樹脂は押し出し機に絡まりやすいため、低速での造形が安定した品質を保つために重要です。さらに、適切な造形速度とノズル温度の調整も必要です。
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TPU樹脂は、その柔軟性と耐久性から、多くの分野で利用されています。3Dプリンターでの使用においても、その特性を活かすことで、さまざまな製品や試作品を高品質に造形することが可能です。湿度管理や造形速度に注意することで、より高い品質の造形が期待できるでしょう。
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写真/Getty Images