3Dプリンターでアイデアを形に

学べる見積サイト・3Dプリントソリューション『3D-FABs』とは? その活用ポイントに迫る

ものづくりのスピードアップやコスト削減に貢献するものとして注目される3Dプリンター。一方で、経験やノウハウの不足から、その利活用が思うように進まない企業も多いようです。

そうした課題を解決するため、Web上でAIを使ったシミュレーションを行いながら、3Dプリンター活用に必要なノウハウを無料で蓄積することができる、学べる見積サイト『3D-FABs』を2023年5月にリリースしたオリックス・レンテック。

一体どんなサービスなのか? 3Dプリンターの有用性について伺った前回に引き続き、ライター松山が、オリックス・レンテック株式会社 事業戦略本部 事業開発部 3Dプリンター事業推進チーム 袴田友昭さんと、安田和磨さんに聞きました。

 

 

『3D-FABs』って、どんなサービス? 「ノウハウを蓄積できる」ってどういうこと?

松山

さっそくですが、まずは『3D-FABs』って、いったいどんなサービスなのか教えていただけますか?

袴田

はい。『3D-FABs』は、お客さまご自身で3D CADデータをWebサイトにアップロードしていただき、使用する材料やプリンターの種類などを、さまざまなパターンでシミュレーションしながら、概算費用をその場で確認できる無料のサービスです。

オンラインで24時間365日、いつでもシミュレーションができることに加え、造形可否の判定や、より適切な造形に向けたレコメンドが表示されるので、満足いくまでパターンを試しながら、3Dプリントに関する知識やノウハウを学ぶことができます。

これが『3D-FABs』のTOPページ。会員登録すれば、誰でも無料で利用できる。

『3D-FABs』の特長(1)設計データや造形条件が適切な内容となっているか判定 & 修正点をレコメンドしてくれる

松山

造形可否の判定や、適切な造形に向けたレコメンドって、具体的にはどんなものですか?

安田

シンプルな例ですと、例えば300mm角の造形物を作りたいのに、造形エリアが250mm角の装置を選んでいたら、そもそもその装置では作れませんよね。 このように、アップロードした3D CADデータに対し、選択した3Dプリンターや材料などの条件で適切に造形できるかどうか、可否を判定します。

他にも、「造形物の穴径が小さすぎて作れない」、「厚みが足りなくて変形リスクがある」、「造形姿勢を変えた方がいい」など、適切な造形ができるデーや造形条件となっているかを判断し、修正箇所をレコメンドします。

袴田

3Dプリンターって、実はすべてを万能に作れるものではなく、造形方式や材料、装置などによって、向き不向きや制限が発生します。例えばオーバーハングといって、造形物に迫り出し部分(空中に浮いている部分)があるケース。そこが斜め45度以下の角度だと、多くの造形方式で変形が起きるリスクが高まるんです。

わああ、いろんな試作品がある! お客さまに説明するために、さまざまな「製作例」を揃えているそう。

安田

それを防ぐためにサポート材と呼ばれる支えを作り、造形後に除去する必要があるのですが、角度が浅すぎる造形物だと、サポート材を付けてもオーバーハングが変形してしまうことがあります。

網目のように見える部分が、オーバーハングを支えるサポート材。ほんとだ、右下の穴が崩れてしまっている。

安田

『3D-FABs』は、こうした変形リスクがありますよ、この造形姿勢だとこのくらいの量のサポート材が必要ですよ、といった内容を、自動で判定しレコメンドします。

松山

すごい。失敗作を造形してしまう前に、事前に3D CADデータや設定の改善ポイントがわかるんですね。

袴田

はい。設計でエラーが出る主な原因の一つに、「従来工法の要領で設計している」ことが挙げられます。従来工法と3Dプリンターでは、ものづくりの考え方が違うんです。

例えば、内部に空洞を作る場合、従来工法では「削る」ことが多く、切削工具が入る向きに合わせて作られていました。

しかし3Dプリンターは、基本的に材料を下から積層して造形していきますので、その点は自由に造形が可能です。ただ、内部にサポート材を入れる必要があり、それをどう入れて、どう除去するかという別の検討が必要になります。従来工法に適した設計が、3Dプリンターに適した設計となるわけではないのです。

松山

なるほど。そうした知見がないと、従来の経験値で進めてしまいそうですね。

袴田

実際に「従来工法に適した設計」で3Dプリンターの造形依頼をいただくケースが、これまで多くありました。すると、うまく造形できなかったり、データの修正やり取りで時間を要したりと、3Dプリンター利活用のハードルを上げる一因となっていました。

でも、『3D-FABs』でシミュレーションを繰り返し、3Dプリンターの特性を掴んでいただくことで、そこが解消できます。「こういう形状を実現するには3Dプリンターと従来工法のどちらが良いか」などの判断基準も養っていただけると考えています。

『3D-FABs』の特長(2) 試算がその場ですぐにできる

松山

ちなみに、必要なサポート材の量が多いと、かかる費用も大きくなるのでしょうか。

安田

はい。 同じ設計データでも、造形姿勢によってサポート材の付け方が変わるため、造形時間やコストが大きく変わってきます。

どの姿勢であれば、極力コストを抑えた造形ができるのか」という検討は、やはり、実際に3Dプリンターを所有して何度も作って試してみるか、造形サービスを提供する企業の担当者に一つひとつ問い合わせしなければ、わからない点でした

松山

なるほど。でも『3D-FABs』なら、一つひとつ造形したり問い合わせしたりしなくても、費用を試算できる、と。

安田

そのとおりです! 実は、3Dプリンターの知識やノウハウを持っている私たちでも、複雑な造形物のご依頼ですと、適切な材料や造形姿勢、後加工などの造形条件を何度も打ち合わせ、場合によっては技術者と議論したり実際に試作したりしながら、見積もりを何度も作り直す必要がありました。お客さまには数日から1週間以上お時間をいただいてしまうケースもあり、課題となっていたんです。

お客さまがお好きなときに、即時に試算できる『3D-FABs』によって、この点が解消できると考えています。

『3D-FABs』の特長(3) 試算データをデジタルアーカイブ化し、ノウハウとして蓄積

袴田

ちなみに、機密情報を扱う観点から、アップロードいただいた3D CADデータは2週間後に消去されますが、試算データはアカウントに紐づけてアーカイブされます。

松山

アーカイブがあると、過去の試算との比較がしやすいですね。

袴田

はい。ぜひ、さまざまなパターンを繰り返しシミュレーションいただいて、わずかな形状の変更や造形姿勢の選択が、コストや制作時間にどう差を生むのか、体感していただきたいです。

それに、3Dプリンターの活用を促進するには、設計・製造、両現場のノウハウ共有が重要です。『3D-FABs』のアカウントを、デジタルアーカイブとしてご活用いただければ嬉しいです。

3Dプリンターには、日本のものづくりを変革するポテンシャルがある

松山

あの…ここまで聞いてきて、今さらな疑問なんですが、『3D-FABs』ってある意味、御社がこれまでに培ってきたノウハウの結晶なのでは。無料で公開しちゃって大丈夫なんですか?

袴田

大丈夫です(笑)。

実は『3D-FABs』を立ち上げる最初のきっかけは、オリックス・レンテックが長年培ってきた3Dプリンターのノウハウを、属人化させずデジタルアーカイブ化しなければ、という考えからでした。

私たち、オリックス・レンテックは、創業以来、測定器のレンタルを中心にあらゆる業界・規模のものづくりに携わらせていただき、日本のものづくりを下支えしてきた歴史を持ちます。

3Dプリンターに関しても、早期からハイエンド3Dプリンターのレンタル事業やプリントサービスを展開し、精密機器から医療機器、自動車、航空機までさまざまな分野のものづくりをサポートしてきたため、豊富なノウハウが溜まっていました。一方で、社内エンジニアの技術が属人化しており、ノウハウのデジタルデータ化、つまり3Dプリンター事業のDXを推進する必要があったのです。

そうしてDXを進めていくなかで、「あ、せっかくDXを進めるなら、お客さまにもデータを共有した方がいい!」と気がつき、『3D-FABs』サービス立ち上げに至りました。

松山

ん? 貴重なノウハウは社外秘するのが一般的なんじゃないかな、と思うんですが…。そこでなぜ「お客さまに共有」という発想になるんでしょう。

安田

私たちは、3Dプリンターのレンタルサービスや導入支援をマルチベンダーで展開する企業ですから。日本のものづくりを大きく進化させるポテンシャルを持つ3Dプリンターを、やはり多くの方に使っていただきたいのです。

松山

なるほど。ノウハウを提供することで3Dプリンターを活用できる人が増えれば、オリックス・レンテックさんのマーケット拡大にもつながるんですね。

袴田

そのとおりです。ここまでお伝えしてきて、「3Dプリンターはノウハウが必要なので活用が難しそう」という印象を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。でも実際には、いろんなものを自由に設計できて、手軽に良いものが作れる素晴らしいツールなんです。

金型を製作したり保管したりする必要もなく、現場の工数やコスト削減にも貢献できる。製造業の未来を明るく切り拓くものだと捉えています。

松山

確かに。 ものづくりのプロセスを大きく変えそうですね。

袴田

でも実態としては、日本の製造業はまだまだ3Dプリンターを活用できていないのが現状です。その一因は、やはりノウハウを得る機会の不足。

ですから、『3D-FABs』によって、皆で3Dプリンターの知識やノウハウを蓄積し高め合い、日本のものづくりをここから変えていきたい。ものづくりの現場をずっと支えてきた、私たちの思いです

松山

熱い! 改めて、『3D-FABs』を利用してみたくなりました。本当に無料で使い倒して良いんですね?

安田

もちろんです。本音を言えば発注までしていただけると嬉しいですが(笑)。ぜひ思う存分、楽しみながら使い倒していただければと! 

松山

ありがとうございます! では、さっそく登録して使ってみたいと思います!

次回に続く