3Dプリンターでアイデアを形に

3Dプリンターとは?種類、用途、基礎知識をご紹介

3Dプリンターは、近年注目を集める革新的な製造技術として、さまざまな分野で活躍しています。製造業だけでなく、医療や教育、趣味の世界にまで広がり、その用途の多様さと可能性の大きさが話題を呼んでいます。本記事では、3Dプリンターの基本的な仕組みや歴史、種類、さらに実際の活用例までを分かりやすく解説します。これから3Dプリンターの導入を検討している方や、基礎知識を深めたい方の参考となれば幸いです。

3Dプリンターの基本とは?

3Dプリンターは、従来の切削や鋳造などの製造方法とは異なり、材料を積層することで立体物を形成する技術です。その特長は、形状やデザインの自由度が高く、これまでにないアイデアを実現する可能性を秘めている点にあります。これにより、試作品の製造やカスタマイズ製品の作製が容易になり、多くの分野で革新をもたらしています。

3Dプリンターの定義

3Dプリンターは、3Dデータをもとに材料を積層することで立体物を形成する技術のひとつです。この装置は、3Dデータを直接製造に活用できるため、非常に自由度が高く複雑な形状を、素早く製造できるのが特長です。主に樹脂や金属といった材料が使用されますが、最近ではセラミックや生体材料といった特殊な素材も登場し、用途の幅がさらに広がっています。これにより、製造業だけでなく医療や教育、さらには芸術分野でも活用され、従来の製造方法を補完する技術として注目されています。

3Dプリンターの動作の基本と種類

3Dプリンターの動作の基本について、いくつかのステップに分かれています。

ステップ1は、3Dデータの作成です。3D CADソフトウエアを使って、造形したいモデルの3Dデータを作成します。 

ステップ2は、データの変換と造形条件の設定です。作成した3Dデータをスライスソフトに取り込み、3Dプリントできる形式(通常はSTL形式)に変換し、造形条件(積層ピッチ、造形速度、サポート材の有無など)を設定します。

ステップ3は、3Dプリンターでの造形です。3Dプリンターにデータを送り、造形を開始します。造形中はプリンターの動作を監視し、フィラメント切れやプリントミスに注意します。以上が造形の基本的な流れです。積層にはさまざまな方式があり、例えば熱で材料を溶かして積み上げるFFF/FDM(熱溶解積層)方式や、液体樹脂を光で硬化させるSLA(光造形)方式 、粉末をレーザーで焼結するSLS(粉末積層焼結)方式などがあります。それぞれの方式は特性や適用分野が異なるため、目的に応じた選択が必要です。

3Dプリンターの仕組みや作成について詳しくは、「3Dプリンターのデータ作成方法から造形物完成方法まで解説」をご覧ください。

3Dプリンターの歴史と発展

ここでは、3Dプリンターの歴史と発展を紹介します。

3Dプリンターの誕生と進化

3Dプリンターが初めて登場したのは1980年代のことで、当初は産業用の試作品製造を目的に開発されました。この時期に誕生した3Dプリンターは、高額かつ大型で、限られた専門機関や企業だけが利用可能なものでした。しかし、1990年代以降の技術革新により、装置の小型化や精度の向上が進み、用途も拡大していきました。さらに、2000年代に入るとオープンソースの影響や素材の多様化が進み、コスト削減が実現しました。現在では、プロフェッショナル用途だけでなく、教育現場や個人の趣味の領域にまで浸透し、家庭用モデルも一般的になりました。

主要な技術の進化とトレンド

3Dプリンターの進化を支える中心的な要素は、多様な造形技術の登場です。例えば、FFF/FDM(熱溶解積層)方式は低コストなものが多くて扱いやすく、初心者にも適しています。一方、SLA(光造形)方式は高精度で滑らかな表面仕上げが可能で、工業製品やデザイン分野で重宝されています。また、SLS(粉末積層焼結)方式 は強度が求められる部品の製造に適し、航空宇宙や医療分野での利用が進んでいます。これらの技術に加え、最近ではマルチマテリアル対応や高速度印刷といったトレンドが注目を集めています。

より詳しい技術の変遷については、「3Dプリンターで作った作品例|家庭用からプロ向けまでをご紹介」をご覧ください。こうした進化により、3Dプリンターは「ものづくり」の現場を大きく変え、従来の切削や鋳造などの製造方法では不可能だった革新的なアイデアの実現を可能にしています。

3Dプリンターの種類と技術

3Dプリンターには、さまざまな造形方式があり、それぞれの方式には特長や適した用途があります。

FFF/FDM(熱溶解積層)方式は、樹脂フィラメントを加熱して溶かしながら積層する技術で、家庭用や教育分野で広く活用されています。

SLA(光造形法)は液体樹脂を紫外線やレーザーで硬化させることで精密な造形が可能で、デザインや工業製品の試作に適しています。

SLS(粉末積層焼結)方式  は粉末状の素材をレーザーで焼結して成形する技術で、強度が求められる部品や複雑な形状を製造する際に効果的です。

また、金属3Dプリンターでは金属粉末をレーザーで焼結するPBF(粉末床溶融結合)方式が主流で、航空宇宙や自動車産業など、高強度が求められる分野で利用されています。

これらの造形方式は、精度、強度、材料の種類、コスト、造形速度などが大きく異なるため、用途や目的に応じた適切な方式を選ぶことが重要です。各方式の詳細については、

3Dプリンターの種類は?造形方式や選び方のポイントを紹介 でご確認いただけます。また、近年では複数の素材を同時に使用できるハイブリッド方式や、大型造形が可能なインダストリアルモデルなど、新たな技術が次々と登場しています。こうした進化により、3Dプリンターの可能性はさらに広がり続けています。

3Dプリンターの用途と応用例

3Dプリンターは、製造業をはじめ、医療、教育、エンターテインメント、建築など、幅広い分野でその活躍の場を広げています。製造業では、試作品や小ロット生産品の作製が主な用途とされ、製造工程の効率化やコスト削減を可能にしています。

医療分野では、患者一人一人に合わせた義肢やインプラントの作製、さらには手術計画用のモデル作製に用いられ、医療の精度と安全性を向上させる役割を果たしています。教育現場では、学生が3Dモデリングやものづくりの工程を学ぶためのツールとして採用され、実践的な学習をサポートしています。

エンターテインメント分野では、映画やアニメの小道具やフィギュアの制作に利用されるほか、アートやファッションの分野でもクリエイティブな表現を実現する手段として注目されています。また、建築業界では、建築模型やカスタム部品の作製が行われるほか、大型3Dプリンターを用いて建物の一部を直接造形する試みも進められています。

食品分野でも3Dプリンターの利用が拡大しており、チョコレートやゼリーなどを精密な形状に加工することで、料理やスイーツの新たな表現方法が実現されています。このように、3Dプリンターの用途は従来の製造業を超え、私たちの生活や文化を変える可能性を秘めています。

各分野での応用例について詳しくは、「3Dプリンターの種類は?造形方式や選び方のポイントを紹介」をご覧ください。

3Dプリンターのメリットとデメリット

3Dプリンターは、従来の切削や鋳造などの製造方法に比べて多くの利点を持つ一方で、いくつかの課題も存在します。

3Dプリンターのメリット

3Dプリンターの利点は、複雑な形状や構造を精密に再現できる点にあります。従来の加工技術では困難だったデザインや内部構造を持つ部品も、3Dプリンターを用いることで容易に製造可能です。また、小ロット生産に適しているため、個別ニーズに対応した製品やプロトタイプの製造におすすめです。これにより、開発期間の短縮やコスト削減が実現します。さらに、データを基に直接造形できるため、金型の作成が不要となり、少量生産でもコストを抑えた製造が可能です。加えて、必要な部品をオンデマンドで製造できるため、在庫管理や物流コストの削減にも寄与します。

3Dプリンターのデメリット

一方で、3Dプリンターにはいくつかの課題も存在します。まず、製造時間が従来の切削や鋳造などの製造方法に比べて長くなることが多い点が挙げられます。積層方式の特性上、一層一層を順次積み上げるため、大量生産には不向きです。また、使用できる材料や方式には制約があり、造形物の強度や仕上がりに影響を与える場合があります。

高精度を要求される用途や特殊な材料を用いる場合、高性能な機種が必要となり、導入コストが大きなハードルになることも少なくありません。一部の技術では後処理が必要であり、これが製造工程全体の効率に影響を与えることがあります。

これらのメリットとデメリットを考慮した上で導入を検討することが重要です。

3Dプリンターの導入と選び方

3Dプリンターを導入する際には、使用目的、必要な精度、予算に基づいて機種を選ぶことが重要です。初心者には、扱いやすいFFF/FDM(熱溶解積層)方式がおすすめです。この方式は、比較的低コストで運用が可能なため、教育現場や個人の趣味として始める場合に適しており、消耗品となるフィラメントも安価で手に入りやすい点が利点です。

精密な造形や滑らかな表面仕上げが求められる専門的な用途には、SLA(光造形)方式 のプリンターが適しています。この方式は、液体樹脂を用いるため高い精度を実現できますが、初期費用や運用コストがやや高くなる傾向があります。そのため、工業デザインやプロトタイプ製造、さらには医療モデルの作製など、専門的な用途で利用されることが多いです。

業務用としては、SLS(粉末積層焼結)方式 やPBF(粉末床溶融結合)方式 など、強度や耐久性が必要な部品を製造できる技術が選ばれることがあります。これらは、航空宇宙や自動車産業、医療機器分野など、精度が求められる用途で活躍しています。

選定の際には、対応可能な材料や造形サイズ、操作性も検討ポイントになります。一部の材料は特定の機種や専用のオプションにしか対応していないため、目的に合った材料を扱えるかどうかを確認する必要があります。また、データ作成やプリンター操作を行うための ソフトウエアが使いやすいかどうかや、サポート体制が整っているかも重要な判断基準です。

導入後の運用コストやメンテナンスの容易さも見逃せないポイントです。頻繁に使用する場合は、消耗品の価格や交換頻度、トラブル時の修理対応などを事前に調査しておくと安心です。

初心者から上級者まで、詳細な選び方のポイントについては、「3Dプリンターで作れるもの一覧!」を参考にしてください。適切なプリンターを選ぶことで、3Dプリンターの可能性を活かすことができます。

3Dプリンターの材料とその特徴

3Dプリンターで使用される材料は、用途や造形方式によって多岐にわたります。一般的に利用される材料には、PLA(ポリ乳酸)樹脂やABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂といった樹脂があります。PLA樹脂は植物由来の成分で構成されており、環境に優しい生分解性が特長です。造形時の匂いが少なく、収縮がほとんどないため、初心者にも扱いやすい材料として広く使用されています。一方、ABS樹脂は耐衝撃性や耐熱性に優れた特性を持ち、機械部品や耐久性が求められる用途で重宝されていますが、造形時には収縮しやすいため加熱した造形環境が必要となる場合があります。

金属3Dプリンターでは、アルミニウム合金、ステンレス、チタン合金、インコネルなどの金属粉末が使用されます。これらの材料は、強度や耐熱性に優れ、高い精度が求められる航空宇宙産業や医療分野の部品製造に適しています。また、ナイロン樹脂を使用した造形は、柔軟性と強度を兼ね備えており、機械部品やカスタムパーツに多く利用されています。

近年注目されているのが特殊用途向けの材料です。例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、高温や化学薬品に耐える特性を持ち、医療や工業分野での利用が進んでいます。また、TPU(熱可塑性ポリウレタン)樹脂は弾力性があり、靴底や柔軟な部品の製造に適しています。食品分野では、チョコレートや砂糖を材料とする食品用3Dプリンターが登場しており、食材を自由な形状に加工することが可能です。

医療分野ではバイオ材料が開発されており、細胞培養や組織工学のための特殊な材料も研究が進んでいます。このように、材料ごとに異なる特性を理解し、用途に応じた素材を選ぶことが、3Dプリンターを効果的に活用するための鍵となります。

3Dプリンターの材料については、「3Dプリンターの材料選びガイド|種類と特徴を解説」と「3Dプリンター用のフィラメントとは?素材ごとのメリットや造形方式を解説!」をご参照ください。

3Dプリンターの保守とメンテナンス

3Dプリンターを長期間安定して使用するためには、定期的な保守と適切なメンテナンスが欠かせません。ここでは、定期的なメンテナンスの重要性と造形方式による比較について紹介します。

定期的なメンテナンスの重要性

3Dプリンターを安定して使用するためには、日常的な点検と定期的なメンテナンスが大切です。特にFFF/FDM(熱溶解積層)方式 のプリンターでは、ノズルが詰まることが多いため、定期的に清掃することで造形エラーを防ぎ、スムーズな印刷を実現します。また、フィルターやファンの清掃も重要で、これを怠るとプリンター内部の熱管理が不十分になり、トラブルの原因となることがあります。さらに、プリントベッドの水平調整は、造形物の精度を保つ上で欠かせない作業です。水平が狂ったまま使用すると、造形物の接地が不安定になり、層が崩れる原因となるため、定期的なチェックと調整を行いましょう。

造形方式によるメンテナンスの比較

3Dプリンターのメンテナンスは、造形方式によって必要な頻度や手順が大きく異なります。FFF/FDM(熱溶解積層)方式 の場合、ノズルやエクストルーダーの清掃が主なメンテナンス作業となりますが、使用するフィラメントの種類によってもノズル詰まりのリスクが異なるため、材料に応じた対策が必要です。一方、SLA(光造形法)方式では、液体樹脂が硬化するタンクやプリントベッドの表面を清潔に保つことが求められます。

使い終わった液体樹脂は適切に保管することで、使用時の品質を維持できます。SLS(粉末積層焼結)方式では、残った未焼結の粉末材料を再利用するために、粉末の回収や再調整が必要です。さらに、粉末がレーザーやプリンター内部のセンサー部分に付着しないよう、定期的な清掃を行うことも大切です。PBF(粉末床溶融結合)方式では、粉塵対策やフィルター交換の頻度が他の方式よりも高く、特に安全管理が求められます。これらのメンテナンスを適切に行うことで、プリンターの寿命を延ばし、安定した造形品質を維持することが可能です。

方式ごとの具体的なメンテナンス方法や注意点については、「熱溶解積層(FDM/FFF)方式の3Dプリンターの特徴は?導入を検討するときに知っておきたい仕組みやメリットを紹介」 をご参照ください。日頃のケアを怠らないことが、高いパフォーマンスを保つ秘訣です。

家庭用と業務用の違い

家庭用3Dプリンターと業務用3Dプリンターには、性能や用途、価格帯などで明確な違いがあります。家庭用3Dプリンターは、操作が簡単で手軽に始められることが特長です。価格帯も手頃で、多くの場合FDM(熱溶解積層法)方式を採用しており、フィラメントも安価で入手しやすいことから、教育や趣味の用途に適しています。ただし、造形精度や使用できる材料に制約があるため、高度な仕上がりや耐久性が求められる用途には不向きな場合があります。

業務用3Dプリンターは、精度、速度、耐久性などの性能が大幅に向上しており、製造業や医療分野、デザイン業界などでプロフェッショナルな用途に活用されています。SLA(光造形)方式 やSLS(粉末積層焼結)方式などの高度な造形技術を採用しており、多様な材料に対応可能です。これにより、複雑な形状や高強度が求められる部品の製造が可能になります。また、業務用プリンターは一度に多数の部品を製造できるため、生産効率が求められる場面でも活躍します。

業務用プリンターでは、専用 ソフトウエアや高度なサポートサービスが提供されることが多く、操作やメンテナンスも専用知識が必要な場合があります。一方で、これにより複雑なプロジェクトや高精度な製造を実現できる点が大きな利点です。このように、家庭用と業務用の3Dプリンターは、目的やニーズに応じて選ぶべき特性が異なります。家庭用ではコストと手軽さを重視し、業務用では性能と対応力を優先することで、目的に適した造形が可能です。

詳細な比較については、「業務用の3Dプリンターとは?「3D-FABs」を使うメリット、できることまで解説」をご参照ください。

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3Dプリンターを選ぶ際には、まずその基本的な仕組みや技術、さらに自分の用途に適した3Dプリンターを理解することが大切です。3Dプリンターには多種多様な方式や材料があり、それぞれの特性を把握することで、目的に合ったプリンターを選ぶための指針が得られます。

詳細な情報や具体的なモデルの比較検討を行いたい場合は、信頼性の高い情報源として3D-FABsを活用するのがおすすめです。初心者から専門家まで、幅広いニーズに対応した情報が得られるため、より良い3Dプリンター選びをサポートすることができます。


写真/adobe stock