3Dプリンターの活用が広がっていますが、自社に導入するときに、いくつか気になるポイントがあることでしょう。そのひとつが、「精度」です。3Dプリンターで、できるだけ正確で美しい造形物を作るにはどんな点に注意すればよいのでしょうか。そもそも3Dプリンターにおける「精度」とはどのように評価するのかという点も含めて解説します。
3Dプリンターの精度には2種類ある
3Dプリンターで求められる精度の代表的なものとして、「寸法精度」と「形状精度」の2つが上げられます。1つめの「寸法精度」とは、長さや厚みなど、指定部分の寸法の正確さを指します。この寸法精度が出ていない場合、部品が組み込めない、がたつきが出るなど、最悪の場合製品を破損させる原因の一つとなります。
2つめの「形状精度」とは、真円度や平面度など、形状の正確さを指します。満足な形状精度が出ていない場合、寸法精度と同じく部品が組み込めないなどの不具合が発生する恐れがあります。
3Dプリンターの精度に影響する要素とは?
3Dプリンターの精度には、いくつかの要素が影響を与えます。見ていきましょう。
積層ピッチ(Z方向)
3Dプリンターでは、材料を1層1層積み上げていくことによって、高さのある造形物を出力します。その積み上げていく間隔、つまり、積層の厚みことを「積層ピッチ」と呼びます。積層ピッチの単位は「mm(ミリ)」で表現され、3Dプリンターの仕様書に記載されています。
積層ピッチが大きいと、「造形時間が短くなる」というメリットがありますが、積み上げていく間隔が厚くなる分、仕上がりが粗くなり、寸法測定箇所ごとのばらつきが出てしまいます。
逆に、積層ピッチが小さいと、「造形時間が長くなる」というデメリットがありますが、積み上げていく間隔が薄くなる分、仕上がりが滑らかになり、寸法測定箇所ごとのばらつきが少なくなります。
積層ピッチの標準値は0.2mmになっていることが多いですが、近年では0.05mmといった高精細な造形も可能になってきています。3Dプリンターの「精度」と「造形時間」の関係から、総合的に判断し、積層ピッチを決めていくのがよいでしょう。
これだけ聞くと、精度を上げるには、積層ピッチを小さくすればよいことになりますが、一定の数値以下になると違いは出にくくなります。また、積層ピッチ以外にも、印刷速度や材料の温度などの印刷条件が精度に影響を与えるため、「積層ピッチ=精度」ではない点には注意しましょう。
XY(縦横)方向の精度
光造形やインクジェット、SLS方式の精度には、積層ピッチだけではなく、XY(縦横)方向の解像度も重要となってきます。XY方向の解像度は、造形物を左右や前後方向にどれだけ細かく表現できるかを示す指標です。解像度が高ければ高いほど、滑らかな曲線やディテールを正確に再現できる可能性が高まります。逆に、解像度が低い場合、表面のざらつきや形状のずれが目立つことがあります。
XY方向の解像度は、「DPI」や「mm」で表記されています。「DPI」は、1インチあたりのドット数を表します。この値が大きいほど、印刷物やプリント物の細部までの再現性が高まります。「mm」はXY方向の移動量を表します。値が小さいほど、より細かい動きが可能となり、細部の再現性が向上します。
3Dプリンターを導入する際には、積層ピッチと合わせて、XY方向の解像度も確認するようにしましょう。
熱溶解積層(FDM/FFF)方式であれば、ノズルの太さも精度に影響します。細いノズルは詳細な特徴を高精度で印刷できますが、プリント時間が長くなります。太いノズルは速く印刷できますが、細部の解像度が低下する可能性があります。層の高さや使用する材料とも関連し、プロジェクトの要件に応じてノズルサイズを選択する必要があります。バランスを取り、目的に最適な印刷品質と速度を達成するために、ノズルの太さを検討しましょう。
材料の収縮
3Dプリンターで使われる主な材料として、金属と樹脂が上げられます。これらを3Dプリントで用いる場合、加熱して材料を溶かし、その後冷却することで造形されます。
樹脂の場合は、加熱時に膨張し、冷却に伴って収縮する傾向があります。これにより造形物の寸法が変化したり、反りが発生したり、変形が起こることがあります。樹脂の収縮率は材料や加熱時の温度などによっても影響を受けます。
金属の場合も、冷却によって収縮が起こる場合があります。一般的に金属の収縮率は樹脂よりも小さく、金属の造形物は樹脂と比べて収縮が少ない傾向です。しかし、金属の収縮も設計や造形条件に影響を与え、造形物の寸法や形状に変化をもたらすことがあります。
3Dプリンターの機器を選ぶ際に「精密な温度管理ができるかどうか」を確認することが大切です。また、収縮率の小さい材料を使用したり、大きい造形物はサイズを分割したりするなどの工夫をするとよいでしょう。
3Dプリンターの設定
造形物の精度を高めるために、3Dプリンターの設定を最適化することが重要です。ブレを抑えるために、プリンターの速度を適切に調整することは、ひとつの方法です。速度を落とすことで、より正確な造形が可能となります。
また、造形する向きを工夫してプラットフォームとの接着面積を広げることで、反り防止につながります。
サポート材の取り扱い
サポート材は、造形物を支えるために使われますが、造形物の表面に残ってしまうことがありますので、精度を向上させるために、サポート材を確実に取り除くことも大切です。
事前にサポート材が少なくなる向きで造形を検討したり、除去が容易なサポート材を使用したりすることも、考慮すべきポイントです。
造形方式ごとの精度の限界
3Dプリンターの精度は、使用する造形方式によって大きく異なります。以下に、主要な造形方式ごとの精度の限界を解説します。
熱溶解積層(FDM/FFF)方式
熱溶解積層(FDM/FFF)方式では、フィラメントを溶かして層を重ねていくため、複雑な形状やディテールの再現には限界があります。一般的なFDM/FFF方式の3Dプリンターの積層ピッチは0.1mmから0.3mmで、最小0.05mmの高精度での造形も可能ですが、フィラメントの収縮や変形の影響を受けやすいです。また、ノズルの直径や印刷速度、材料の特性なども精度に影響を与えます。
光造形(SLA)方式
光造形(SLA)方式は、光硬化樹脂にレーザーを照射して層を形成します。この方式は非常に高精度で、0.025mmから0.1mmの積層ピッチで造形が可能です。滑らかな表面やディテールを再現するのに優れており、寸法精度も高いですが、硬化時の収縮による若干の誤差が生じることがあります。
粉末焼結積層(SLS)方式
粉末焼結積層(SLS)方式では、粉末材料にレーザーを照射して焼結します。この方式の積層ピッチは0.05mmから0.15mmで、複雑な内部構造や形状の再現に適しています。粉末の粒径や焼結時の収縮が精度に影響を与えますが、高い形状精度を保つことができます。
また、他の造形方式と異なり、サポートレスでの造形が可能であることから、構造や形状が複雑なモデルを再現しやすい特徴を持ちます。
インクジェット方式
インクジェット方式は、UV硬化性の液体樹脂を噴射し、UVライトで硬化させながら積層する方式です。この方式は非常に高精度で、0.016mmから0.085mmの積層ピッチで造形できます。形状精度も高く、ディテールや滑らかな表面を再現できます。しかし、樹脂の硬化時の収縮によって、寸法精度に若干の誤差が生じることがあります。
各造形方式の精度に関する特徴
造形方式 |
複雑な形状/ |
表面粗さ |
積層ピッチ |
備考 |
---|---|---|---|---|
熱溶解積層方式 |
苦手 |
凹凸大きい傾向 |
0.050 |
フィラメントの収縮や変形の影響大 |
光造形方式 |
得意 |
滑らか |
0.025 |
硬化時の収縮による若干の寸法誤差あり |
粉末焼結積層方式 |
得意 |
梨地でザラザラ |
0.050 |
サポートレスのため、複雑な内部構造や形状の再現に適している |
インクジェット方式 |
得意 |
滑らか |
0.016 |
硬化時の収縮による若干の寸法誤差あり |
業務用の機種のほうが精度は安定しやすい
設計データに近い形で造形物を作るには、家庭用3Dプリンターよりも、業務用3Dプリンターのほうが適しています。これは業務用3Dプリンターのほうが、細かい温度管理が可能で、造形パラメータを設定しやすいためです。精度が必要な試作や、量産適用を目指す場合は、完成品の質を担保するためにも、業務用3Dプリンターを選ぶことをおすすめします。
ただし、家庭用3Dプリンターは比較的安価で購入できますが、業務用3Dプリンターは高価で1,000万円以上する機種もあります。また購入方法についても、家庭用3Dプリンターの場合は、家電量販店やインターネットショッピングで気軽に購入できますが、業務用3Dプリンターは、専門サイトや法人へのお問い合わせが必要になります。それらの点も踏まえながら、造形物にどのくらいの精度を求めるのか、改めて検討してみるとよいでしょう。
3D-FABsでシミュレーションして、精度を確認しよう
この記事では、3Dプリンターの気になる「精度」について、解説しました。思った以上に、いろいろな条件が、造形物の形状や仕上がりに影響するということが、お分かりいただけたかと思います。
まずは無料で使える、学べる見積サイト・3Dプリントソリューション「3D-FABs」に登録してみてください。「3D-FABs」では、「材料×造形サイズ×3Dプリンター」の組み合わせから、造形条件を選べます。「3D-FABs」でシミュレーションし、どの程度の精度を求めるのかも含めて確認したうえで、希望に合った機器をレンタルすれば、イメージに近い造形物を作れるでしょう。
また、「3D-FABs」でのシミュレーションで、3D CADデータをブラッシュアップすることもできます。作成したデータを多角的な視点でチェックするという目的でも、「3D-FABs」をぜひご活用ください。
「3D-FABs」についてさらに知りたい方は、「学べる見積サイト・3Dプリントソリューション『3D-FABs』とは?その活用ポイントに迫る」を、実際の操作については「『3D-FABs』を使えば、誰でも3Dプリンターのノウハウを学べるのか?? 初心者ライターが検証」をご覧ください。
写真/Getty Images