3Dプリンターでアイデアを形に

3Dプリンターの造形物に残りがちな積層痕を目立たなくするには

3Dプリンターの造形物に残りがちな積層痕を目立たなくするには

製品開発から趣味の造形まで幅広い分野で活用されている3Dプリンター技術ですが、造形物に「積層痕」と呼ばれるシワのような痕が発生してしまう問題があります。この積層痕は3Dプリントした造形物の美観を損ねるだけでなく、精密な部品を造形する際の課題となる可能性もあります。積層痕ができてしまう理由や、積層痕を目立たないようにする方法について解説します。

積層痕ができる理由

積層痕ができる理由

積層痕とはそもそもどのようなもので、どのような仕組みによってできるのでしょうか。積層痕が目立ちやすい造形方式・目立ちにくい造形方式も含めて解説します。

積層痕とは

3Dプリンターは、層ごとに材料を積み重ねて物体を造形します。このプロセスによって生じる線状の跡が、積層痕です。

積層痕は造形物の表面に不均一な溝や段差として現れ、視覚的な美しさを損ねるだけでなく、触感にも影響し、時には強度精度にも悪影響を及ぼす可能性があります。

一方、積層痕は3Dプリンティング固有の特性から生じる問題ではありますが、3Dプリンターが採用している造形方式には、積層痕が目立ちやすい方式と目立ちにくい方式があります。製品の用途や求められる品質基準に応じて、適した3Dプリンターを選択することが、高品質な3Dプリンティングを実現する鍵となります。

積層痕が目立ちやすい造形方式

積層痕が目立ちやすい造形方式としては、3Dプリンターの一般的な造形方式である「熱溶解積層(FDM)方式」が挙げられます。

FDM方式では、ABS樹脂、PLA(ポリ乳酸)樹脂、PETG(ポリエチレンテレフタレートグリコール)樹脂などのフィラメントを高温で溶かして流動状態にし、特定のパターンに沿って層を形成して立体物を作り出します。

この溶けた樹脂を層ごとに重ねて造形物を作り上げる過程で積層痕が生じますが、FDM方式はほかの方式と比較して、ノズル径に起因する積層ピッチが厚くなりやすいため積層痕が目立ちやすくなります。

FDM方式の3Dプリンターは、部品製造に対応する業務用の高価なモデルから一般家庭用の安価で小型のモデルまで幅広く存在します。加えて、造形物が適度な強度と加工のしやすさを持ち合わせていることから、小規模製造、家庭用、教育目的など多様な用途に利用されています。

このことからも、積層痕は3Dプリンターの代表的な問題として知られています。

積層痕が目立ちにくい造形方式

3Dプリンターには積層痕が目立ちにくいものも存在します。その代表例が光造形方式(SLA)および粉末焼結積層/結合(SLS)方式です。

SLA方式では、レーザーを使用して液体状態の光硬化樹脂を固体化し、細かい意匠を持つ立体物を実現します。この技術は、ジュエリー製作、歯科医療、高精度プロトタイピングなど、ディテールデザインや滑らかな表面が求められる分野での使用に理想的とされています。

一方、SLS方式は粉末状の材料をレーザーで焼結させ、層を形成していきます。サポート材が不要であることと、オーバーハングと呼ばれる崖状を含む複雑な製造が可能であることも大きな特徴で、強度が要求される機能部品や複雑なデザインのプロトタイピングに適しているとされています。

SLA方式は光に当てることで硬化する「液体」で造形し、SLS方式では「粉末」を焼結して造形します。そのため、FDM方式の積層痕とは表面の見え方も異なり、造形物の積層痕を感じにくいレベルの仕上がりを実現します。

積層痕を目立たなくするコツ

積層痕を目立たなくするコツ

FDM方式の3Dプリンターを中心に、積層痕が目立ちにくい造形を実現するための工夫を解説します。

積層ピッチの調整

積層ピッチ、すなわち層の厚さを細かくすることで、積層痕を目立たなくすることができます。細かいピッチでは造形時間が長くなる欠点がありますが、その一方で滑らかな表面を実現しやすくなります。

用いる材料

3Dプリントに使う材料によっても、積層痕の目立ち方は異なってきます。

低溶解温度の材料、例えばPLA(ポリ乳酸)樹脂は、流動性が高く滑らかな表面を作り出しやすいため、積層痕が目立ちにくくなります。

また、柔軟性のあるフィラメントも層間の結合が密接になりやすく、積層痕が目立ちにくい特性を持っています。

さらには材料の種類だけでなく、フィラメントの品質も重要な要素となります。直径に一貫性があり不純物が少ない高品質なフィラメントを選ぶことで、均一な層の形成が可能となり、積層痕を減少させることができます。

そのほか、光沢のあるフィラメントや透明感のある材料は、光の反射によって積層痕が目立ちにくいというメリットを持っています。 

なお、業務用3Dプリンターは、一般家庭用の3Dプリンターと比べ、熱などの機械的な制御に優れるため、比較的積層痕が目立ちにくくなります。

表面処理

積層痕を物理的または化学的に処理することで目立たなくする方法もあります。

物理的な処理方法としては、サンディング(研磨)が一般的です。サンディングは、細かいサンドペーパーなどを使用して積層痕のある表面を手作業で滑らかにする技術です。時間と労力を要しますが、目立つ積層痕を効果的に除去して製品の仕上がりを大幅に改善することが可能です。

一方、化学的な処理方法としては、特定の溶剤を使用して積層痕を溶かして表面を平滑化する技術があります。例えば、ABS樹脂フィラメントでプリントされた製品にアセトン蒸気を用いる方法です。アセトン蒸気はABS樹脂の表面をわずかに溶かし、冷却時に滑らかな表面を形成するため、短時間で効果的に積層痕を目立たなくすることができます。

なお、表面処理方法によっては、造形物の強度が下がる場合もあるため、使用する材料に応じた表面処理方法を事前に調べておきましょう。

造形姿勢

造形物の姿勢を工夫することで、積層痕の場所や方向を調整することができます。これを応用して、造形物の見えにくい部分に積層痕が重なるように設計することで、見た目を改善することが可能です。

一般的に、積層痕は層が積み重なる方向に沿って現れて目立ってしまいます。そのため、適切な造形姿勢を選択することで、積層痕を目立たない部分に配置することが可能になります。これにより製品の美観を大幅に向上させることができます。

さらに、造形姿勢の選択以前の3Dデータの設計段階から、積層痕が目立つ場所に来ないように計画することも重要です。例えば、造形物で一番目立つ部分の積層方向が水平方向になるよう造形すると、比較的積層痕は目立ちにくいでしょう。

このアプローチにより機能的には影響を及ばさずに目につきやすい箇所に目立つ積層痕が現れるのを防ぎ、製品全体の質感を高めることができます。

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写真/Getty Images