3Dプリンターでのさまざまなコストに直結する「充填率(インフィル)」について解説します。インフィルの意味や、割合を決めるポイント、充填構造のメリット・デメリットを紹介します。
- 充填率(インフィル)とは?
- 3Dプリンターでの造形時に適切な充填率(インフィル)を決めるポイント
- 充填率(インフィル)を抑えつつ強度を保つ充填構造
- 造形方式による充填率(インフィル)のポイント
- 充填率(インフィル)や充填構造のシミュレーションなら3D-FABs
充填率(インフィル)とは?
インフィルとコストの関係
3Dプリンターのインフィルとは、造形物の内部を埋める材料の密度を指します。
インフィルが高いほど造形物の内部がより詰まった状態になり、使用するフィラメントなどの量が増えるため、コストの増加に直結します。
一方、低いインフィルでは内部が部分的に空洞となり、材料の使用量が大幅に減少しますが、造形物の強度や耐久性に影響を与える可能性があります。
このため、造形物の用途や求められる強度に応じて、適切なインフィルを設定することが求められます。
3Dプリンターでの造形時に適切な充填率(インフィル)を決めるポイント
造形物の目的
造形物の目的に応じてインフィルを調整することが重要です。例えば、強度と耐久性が求められる部品の場合、高いインフィルが必要です。反面、デザインモデルや展示用のオブジェなど強度がさほど重要でないものについては、低いインフィルで十分でしょう。
さらに、軽量化が求められる部品の場合、インフィルを低めに設定し、後述するハニカム構造のような軽量構造を採用するのがおすすめです。
使用する環境
適切なインフィルを設定するためには、使用環境を十分に考慮することが必要です。温度変化・湿度・機械的ストレスなどの環境要因を理解し、それに基づいてインフィルを設定することで、造形物の環境による変形リスクを抑え、造形物に求める性能と耐久性を発揮できます。
一般的に、過酷な環境で使用する部品ではインフィルを高く設定し、材料の膨張や変形に耐えられるようにする必要があります。
3Dプリンターで造形する際の目安のインフィルは?
前述した内容を踏まえ、実際に3Dプリンターで造形する際の目安となるインフィルを、部品の強度要求別に紹介します。
高強度が要求される部品
機械部品や構造的な要素、工具などは高い強度が必要です。こうした用途では、インフィルを70%以上に設定することが一般的です。
中強度が必要な部品
玩具や装飾品、プロトタイプモデルなど、一定の強度が求められるものの詰まっている必要がない場合、30%〜50%のインフィルが適しています。
低強度でも問題ない部品
デザインモデルや一時的に使用するプロトタイプ、展示用のモデルなど、強度がさほど重要でない場合は、10%〜20%のインフィルで十分です。
装飾品や軽量化が求められる部品
ディテールが求められる装飾品や軽量化が求められる部品では、インフィルを20%以下に設定することが多いとされます。
充填率(インフィル)を抑えつつ強度を保つ充填構造
インフィルを抑えつつ強度を保つには、造形物の内部構造が大切なポイントとなります。構造ごとのメリット・デメリットを把握して造形物の目的に応じた構造を選択しましょう。
ラティス構造
ラティス構造は、交差する線やバーによって形成される格子状のパターンを特徴としており、インフィルを低く抑えて重量を減らしつつも高い強度を提供するために利用される充填構造の一つです。
メリット
材料の節約 |
材料の使用量を大幅に削減しながら高い強度を維持することができます。内部が空洞になっている部分が多いため、使用するフィラメントの量が減り、コストを削減することができます。 |
高強度と剛性 |
均一に分布された格子状のパターンにより、強度と剛性を提供します。荷重が均一に分散されるため、特定の部分に集中するストレスを避けることができます。 |
軽量性 |
内部に多くの空洞を含む構造のため、全体の重量を軽くすることができます。 |
衝撃吸収性 |
衝撃を吸収する能力が高く、衝撃や振動を効果的に分散させることができます。 |
デメリット
造形時間の増加 |
ラティス構造は複雑なパターンであるため、造形時間が長くなる傾向があります。格子状のパターンを正確にプリントするには、プリンターの精度と時間が必要です。 |
計算リソースの消費 |
ラティス構造をデザインする際には詳細な計算が必要となり、コンピュータのリソースを多く消費します。 |
後処理の難しさ |
複雑な内部構造のため、後処理が難しい場合があります。特にサポート材の除去や表面の仕上げが困難になることがあります。 |
プリンターの性能依存 |
複雑なラティス構造をプリントするためには、微細造形が得意な3Dプリンターが必要です。積層ピッチが厚かったり、解像度が粗かったりする3Dプリンターではラティス構造が適切に形成されないことがあります。 |
ハニカム構造
ハニカム構造は、六角形のセルが連続して並ぶパターンを持つ充填構造です。この構造は自然界においても見られ、蜂の巣のように材料を節約しながら強度を保つのに優れています。3Dプリンティングにおいて、ハニカム構造は効率的な材料の使用と高い強度を可能にするため、さまざまな用途で採用されています。
メリット
高強度と軽量性 |
ハニカム構造は、その幾何学的な配置により、材料の少ない部分で高い強度を実現します。特に圧縮力に対して非常に優れた耐性を示し、構造全体の軽量化を図ることができます。 |
材料の節約 |
六角形のパターンは使用する材料を効率的に節約することができます。 |
優れた衝撃吸収性 |
ハニカム構造には、衝撃を効果的に吸収してエネルギーを分散させる能力があります。 |
均一な応力分布 |
六角形の構造により応力が均一に分布され、特定の部分に集中することがありません。これにより全体の構造がより均一で安定したものとなります。 |
デメリット
造形時間の増加 |
ハニカム構造は複雑なパターンを形成するため、プリント時間が長くなることがあります。 |
後処理の難しさ |
内部が複雑なため、サポート材の除去や表面仕上げが困難になる場合があります。特に小さなセルが多い場合、後処理に手間がかかります。 |
プリンターの精度依存 |
高精度のハニカム構造をプリントするためには、高性能な3Dプリンターが必要です。低精度のプリンターでは、六角形のセルが正確に形成されないことがあります。 |
設計の複雑さ |
ハニカム構造を設計する際には、ソフトウェアでの設定や計算が必要となり、これに時間とリソースを要することがあります。 |
ライン構造
ライン構造は最もシンプルな充填構造の一つで、直線的に材料を配置する方法です。シンプルな設計であるため、設定やプリントが比較的容易です。
メリット
材料の節約 |
材料の使用量を大幅に削減することができます。 |
高速プリント |
シンプルな直線パターンは、他の複雑な構造に比べてプリント時間が短くなります。プロトタイプの迅速な作製が求められる場合に有効です。 |
簡単な設定 |
設定が簡単で特別な設計や計算を必要とせず、3Dプリントソフトウェアで容易に設定することができます。 |
軽量性 |
材料の使用量が少ないため、全体の重量を軽くすることができます。 |
デメリット
低強度 |
他の充填構造と比べて強度が低い傾向があります。特に荷重がかかる部分や、耐久性が求められる部品には適していません。 |
均一な強度分布の欠如 |
材料が直線的に配置されるため、応力が集中する箇所が生じやすく、全体的な強度が均一ではありません。 |
衝撃耐性の不足 |
衝撃を吸収する能力が低いため、振動や衝撃を受ける部品には適していません。 |
後処理の手間 |
後処理が必要な場合、ライン構造では内部に残る未処理部分が発生することがあり、処理が難しくなる場合があります。 |
造形方式による充填率(インフィル)のポイント
3Dプリンターの造形方式は多岐にわたり、使用される材料や技術によって適切なインフィルの設定が異なります。特に金属や樹脂を使用する3Dプリンターでは、インフィルの設定が造形物の品質とコストに直接影響を及ぼします。
金属3Dプリンターでの充填率(インフィル)の選択
金属3Dプリンターにはいくつかの異なる造形方式があり、インフィルの設定がそれぞれ異なります。
例えば、粉末の金属材料をレーザーで層ごとに溶融して固めるパウダーベッド(PBF)方式では一般的に高いインフィルが求められます。
これに対して、金属を含むフィラメントを熱して押し出す熱溶解積層(FDM/FFF)方式は、PBF方式に比べて低いインフィルで設計されることが多く見られます。
光造形3Dプリンターと充填率(インフィル)の問題点
液体樹脂をUVライトで硬化させる光造形(SLA)方式の3Dプリンターでは、ハニカム構造やラティス構造などの充填構造を利用して内部を中空に設計することが可能ですが、中空部分に未硬化の樹脂が残るという問題が発生することがあります。
この未硬化樹脂は、後処理の際に除去する必要があるため、設計段階で適切な排水穴を設けるなどの対策が必要となります。
また、中空構造の設計は、造形物の強度にも影響を与えるため、用途に応じて慎重に行う必要があります。
充填率(インフィル)や充填構造のシミュレーションなら3D-FABs
3Dプリンターでの造形を成功させるためには、インフィルとインフィルパターンの適切な設定が不可欠です。使用する材料や造形物の目的、環境要因を考慮して、適切な設定を行いましょう。
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写真/Getty Images