3Dプリンターを使った「アディティブマニュファクチャリング」がものづくりの現場を大きく変えようとしています。アディティブマニュファクチャリングについて、従来の製造方法との違い、メリット、3Dプリントの方式などについて解説します。
- アディティブマニュファクチャリングとは?従来の製造方法との違いは?
- アディティブマニュファクチャリングにはどんなメリットがある?
- アディティブマニュファクチャリングの3Dプリントの方式
- アディティブマニュファクチャリングを導入している産業
- 3D-FABsなら設計のシミュレーションから造形の概算費用の試算まですぐに確認できる
アディティブマニュファクチャリングとは?従来の製造方法との違いは?
「アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing)」とは、材料を「積層する(Additive)」ことによって、立体物を「造形する(Manufacturing)」手法です。AMと略されることもあります。アディティブマニュファクチャリングは、何もない状態から素材を積み上げていくので、「付加製造」や「加法製造」とも呼ばれています。
それに対して、従来の切削加工のように素材を切削、切断する製造方法は「サブトラクティブマニュファクチャリング(減法製造)」といいます。従来の切削加工で使用する切削機では、刃物が入りにくい形状の造形物は作ることができません。また、中が空洞になっていたり、造形物の内部にさらに造形物があったりするような複雑な構造も、対応が困難です。従来工法の場合は、そのような限界を踏まえ、切削が可能な形状をデザイン、設計をしなければなりませんでした。
しかし、これまで制作出来なかったような複雑な設計を実現できる加工方法が、アディティブマニュファクチュアリングです。
アディティブマニュファクチャリングにはどんなメリットがある?
アディティブマニュファクチャリングには、主に次のような特徴があります。
設計の自由度が高い
従来の加工法では、刃物が入らない形状や、型から取り出すことができない形状は制作が困難でしたが、アディティブマニュファクチャリングならば造形できます。中空構造やラティス構造なども造形可能なので、造形物の軽量化を図ることができます。また、複数の部品を一体化して造形することで、組み立てのコストを削減できます。設計の違いについてもっと詳しく知りたい方は、「3Dプリンター用の設計データと切削加工の設計データ作りはどう違う」をご覧ください。
3Dデータがあれば造形できる
設計図となる3Dデータがあれば造形できるので、従来工法のように造形物にあわせた金型や治具などを作る必要がなく、コストの削減や制作期間の短縮に繋がります。多品種少量生産や、試作段階に適しています。
材料の使用量を削減できる
切削加工では、形状により多くの材料を廃棄することがありますが、アディティブマニュファクチャリングでは、必要最低限の量の材料のみ使用するため、コストを抑えられます。
大量生産に不向き
従来の切削加工法などと比較すると、アディティブマニュファクチュアリングでは、材料費が相対的に高くなる傾向にあります。さらに、業務用の金属3Dプリンターは大型で高価な機種も多く、複数の機器を所有し同時に造形作業を行うには場所も費用もかかります。
アディティブマニュファクチャリングの3Dプリントの方式
アディティブマニュファクチャリングで使用される素材は、プラスチック樹脂や金属、コンクリートなどがあげられます。熱や硬化剤、レーザーなどで素材を1層ずつ重ねて硬化することで、3次元の造形物を制作していきます。
アディティブマニュファクチャリングには、3Dプリンターによるさまざまな造形方式があります。近年さまざまな業界の企業が導入を進めている金属3Dプリンターを例に、代表的な3つの方式のメリットとデメリットを紹介します。
パウダーベッド(PBF)方式
「パウダーベッド(PBF)方式」は「粉末床溶融結合」とも呼ばれます。造形エリアに金属粉末を敷き詰めて、レーザービームや電子ビームを照射して、1層ごとに溶融と凝固を繰り返して、造形します。精度が高く、強度にも優れているので、金属3Dプリンターでは、最も多く使われている方式です。取り出すときに、固まっていない金属粉末を除去する必要がありますが、除去した粉末は、次に造形する際に再利用できます。
メタルデポジション方式(DED(指向性エネルギー堆積)方式)
「メタルデポジション方式(DED(指向性エネルギー堆積)方式)」は、素材となる金属の噴射と、レーザービームまたは電子ビームの噴射を同時に行い造形します。スピーディに耐久性の高い造形物を作れることや、異種金属を組み合わせた造形ができるというメリットがあります。
ただし、表面の仕上がりがやや粗く、作れる形状の制約が大きいというデメリットがあります。また、造形のプロセスで、酸化による金属劣化が起きる可能性があるので、注意が必要です。
バインダージェット(BJ)方式
バインダージェット(BJ)方式は、造形エリアに金属粉末を平らに敷き詰めて、ノズルからバインダーと呼ばれる液体の接着材を噴射して形を整えて造形します。パウダーベッド方式のレーザービームや電子ビームが、液体のバインダーに置き換わったと考えると、理解しやすいでしょう。
バインダージェット方式のメリットとしては、造形スピードが比較的速い点が挙げられます。また、敷き詰めた金属粉末がサポート材の代わりとなり、上の層を支えてくれるため、サポート材が不要です。ほかにも着色がしやすいというメリットがあります。ただし、脱脂や焼結の工程が必要なため、手間がかかる点がデメリットといえるでしょう。
サポート材については「3Dプリンターのサポート材の役割って何?最小限に抑えるメリットを解説」も参考にしてください。
アディティブマニュファクチャリングを導入している産業
現在、アディティブマニュファクチャリングを導入している産業が増えています。各産業で、どのように活用されているか紹介します。
航空・宇宙産業
航空産業や宇宙産業では、軽量かつ強度のあるパーツを少量ながら、多品種に製造することが重要です。アディティブマニュファクチャリングの技術を用いれば、少数の最適化されたパーツを造形できます。また、アディティブマニュファクチャリングは従来の工法に比べて短期間で造形できるため、プロジェクトをよりスムーズに進行させる手助けにもなるでしょう。
ヘルスケア
アディティブマニュファクチャリングの技術は、複雑な形状やカスタマイズされた医療器具を造形するのにも適しています。歯科や整形外科で用いる製品など、患者ごとに適合しやすい製品の提供が可能になるので、ヘルスケア分野でもアディティブマニュファクチャリングの導入が今後ますます進むと考えられます。
自動車
多数の部品で構成されている自動車は、部品が製造中止になると、自動車自体の生産も中止せざるを得なくなることがあります。アディティブマニュファクチャリングを導入すれば、特定の部品を小ロットで製造することが可能になるため、旧車を復活させることができ、車両廃棄数の削減につながります。循環型社会が理想とされる昨今において、アディティブマニュファクチャリングへの期待が高まっています。
建築
海外では、すでに3Dプリンターを活用した住宅や橋梁の建築物が多くあります。日本でも、建築会社によるアディティブマニュファクチャリングの導入が進んできました。建築物の施工期間が大幅に短縮できるのは、建築産業で3Dプリンターを用いる最大のメリットといえます。また、従来の工法では難しかった曲線構造の建築物も、3Dプリンターならば、製造しやすくなるため、建築デザインにおける新たな可能性を生み出しています。
3D-FABsなら設計のシミュレーションから造形の概算費用の試算まですぐに確認できる
学べる見積サイト・3Dプリントソリューション「3D-FABs」に3Dデータをアップロードすれば、3Dプリンターに適した設計になるよう、AIの自動判定による3Dデータ改善のアドバイスを受けられます。アディティブマニュファクチャリングによって実現可能になった複雑な設計を試してみたい方は、ぜひご活用ください。
また、複数個、複数種類の造形物を一度に出力するシミュレーションも可能です。さまざまなパターンでシミュレーションと試算をすることで、コストを抑えるヒントが得られます。
「3D-FABs」の活用方法について詳しく知りたい方は、「学べる見積サイト・3Dプリントソリューション『3D-FABs』とは? その活用ポイントに迫る」を、使い方を詳しく知りたい方は、「『3D-FABs』を使えば、誰でも3Dプリンターのノウハウを学べるのか?? 初心者ライターが検証」をご覧ください。
写真/Getty Images