自然由来の樹脂でサステナブルな面でも注目されるPLA(ポリ乳酸)樹脂。自社製品や試作品の作製にも3Dプリンターを導入したいと考えている方向けに、留意点を紹介します。
- PLA樹脂とは
- PLA樹脂のメリット・デメリット
- 3DプリンターでPLA樹脂の使用がおすすめできる場面
- PLA樹脂で造形する際に留意するポイント
- 3D-FABsでPLA樹脂と他の材料を比較シミュレーション
PLA樹脂とは
PLA樹脂はトウモロコシやサトウキビといった再生可能な植物資源を原料とするバイオプラスチックです。PLAは生分解性を持ち、適切な条件下で微生物により分解されるため、廃棄後の環境負荷が少ないことが特徴です。
元々は、自動車部品や電子機器の筐体などさまざまな製品に広く使用される石油ベースのプラスチックであるABS樹脂の代替品として開発されました。
PLA樹脂のメリット・デメリット
PLA樹脂のメリット
・環境に優しい
PLA樹脂は再生可能な植物資源から製造され、さらには廃棄後も特定の条件下で微生物により分解され、水と二酸化炭素に還元されます。
・カーボンフットプリントが低く抑えられる
PLA樹脂の製造プロセスでは、石油ベースのプラスチックに比べて二酸化炭素(CO2)の排出が少なく、カーボンフットプリントが低く抑えられます。
・再生可能資源の利用
トウモロコシやサトウキビといった植物を原料とするため、持続可能な資源を利用することができ、石油資源の枯渇を防ぐことにつながると考えられます。
・高安全性
PLA樹脂は食品に直接触れる製品や医療用途にも使用できる安全な素材のため、食品包装材やカトラリー、医療用インプラントなどに利用されています。
・高透明性
PLA樹脂は透明度が高く、透明なフィルムやボトルなど、美しい仕上がりが求められる製品に適しています。
・加工しやすい
PLA樹脂は比較的低温で溶融しやすく、加工が容易であり、成形やプリントがしやすいため、3Dプリンター用フィラメントとして広く利用されています。
PLA樹脂のデメリット
・耐熱性の低さ
PLA樹脂は約60℃で変形し始めるため、高温環境での使用には適していません。
・脆さ
PLA樹脂は硬くて脆い特性があり、衝撃に弱く割れやすいという欠点があります。
・生分解に条件がある
PLA樹脂は特定の条件下でのみ生分解されるため、適切な廃棄方法や処理施設の整備が必要です。
・吸湿性
PLA樹脂は湿気を吸収しやすいため、保存や使用時に注意が必要です。特に3Dプリンター用フィラメントとして使用する場合、吸湿により品質が劣化することがあります。
ABS樹脂との比較
PLA樹脂とABS樹脂は他の材料と比較して安価な材料なため、この2種類はよく比較されます。それぞれの特徴を検討し、材料を検討するとよいでしょう。
PLA樹脂とABS樹脂との比較表
項目 |
PLA樹脂 |
ABS樹脂 |
原料 |
トウモロコシ、サトウキビなどの植物資源 |
石油 |
生分解性 |
あり(特定の条件下で) |
なし |
耐熱性 |
低い(約60℃で変形) |
高い(約100℃以上で使用可能) |
強度 |
硬くて脆い |
柔軟で強度が高い |
環境負荷 |
低い |
高い |
吸湿性 |
高い |
低い |
3DプリンターでPLA樹脂の使用がおすすめできる場面
ラピッドプロトタイピング
PLA樹脂は、さまざまな点からラピッドプロトタイピング(迅速な試作)に非常に適した素材です。
まず、加工がしやすく、比較的低温(約180~220℃)で溶融するため、3Dプリンターでの成形が容易です。それに加えPLA樹脂は冷却時の収縮が少なく、形状変更リスクの少ない安定したプロトタイプを作製することができます。これにより、設計通りの形状や寸法を持つ試作品を迅速に作製することが可能です。さらに、PLA樹脂の高い透明度と美しい仕上がりは、試作品としての見栄えを向上させます。
また、環境への配慮もPLA樹脂の大きな利点の一つです。試作品を多く作製するラピッドプロトタイピングでは廃棄物が多くなりがちですが、生分解性の特性を持つPLA樹脂は、肥料化や堆肥化などの処分方法が今後広まっていき、よりエコフレンドリーな選択になっていく可能性があります。
さらに、PLA樹脂は比較的安価に入手可能であり、コストパフォーマンスにも優れています。
大きい造形モデル
PLA樹脂は、大きい造形モデルの作製にも適しています。
収縮率が低く、冷却時の変形が少ないため、大型の3Dプリンターでも高い寸法精度を維持することができます。また、PLA樹脂は比較的低温で溶融するため、設定や調整が容易で安定したプリント品質を保つことができます。さらに、前述した通りPLA樹脂の高い透明度と美しい仕上がりは、デザイン性を重視する大きなモデルでも利点になります。
それに加え、材料のコストも重要な要素であり、PLA樹脂は他の3Dプリンター用フィラメントに比べて比較的安価で、大量の材料を使用する大きなモデルでもコストを抑えることができます。
模型・玩具
PLA樹脂は、模型や玩具の製作にも非常に適した素材です。加工がしやすく、低温で溶融しやすいため、複雑な形状やディテールを持つ模型や玩具を高い精度で作製することが可能です。
PLA樹脂で造形する際に留意するポイント
温度管理
PLA樹脂を使用して3Dプリントを行う際には、適切な温度管理が非常に重要です。PLA樹脂に適したプリント温度は一般的に180~210℃の範囲内です。メーカーやフィラメントの太さで推奨温度は異なるため、プリント開始前に推奨温度を必ず確認したうえで推奨温度に入っているかを確認しましょう。温度が低過ぎると、フィラメントの押し出しが不均一になり、プリントが途切れる原因となります。逆に、温度が高過ぎると、フィラメントが過剰に溶融してプリントの精度が低下したり、ノズルが詰まったりする原因となります。
また、ベッド温度も重要となります。PLA樹脂は比較的低い温度(50~70℃)でよく接着しますが、ベッド温度が適切でないと、プリントの初期段階でモデルがベッドから剥がれてしまうことがあります。
冷却ファンの使用も温度管理の一環として重要です。PLA樹脂は速やかに冷却されることで、層間の接着が良好になり、形状変形の少ないプリントが可能となります。プリント中は冷却ファンを適切に作動させ、各層がしっかりと冷却されるように調整しましょう。
さらに、環境温度も考慮する必要があります。3Dプリンターが設置されている部屋の温度が低すぎたり、風通しが悪かったりする場合、プリント品質に影響を及ぼすことがあります。
湿度管理
PLA樹脂を使用した3Dプリントにおいて、湿度管理は重要です。PLA樹脂は湿気を吸収しやすく、吸湿するとプリント品質が低下します。以下の点に注意して湿度を管理しましょう。
未使用のフィラメントは湿気を避けるために密封容器に保管し、シリカゲルなどの乾燥剤を併用しましょう。また、密閉できるプラスチックバッグや真空パックも有効です。
プリント環境の湿度は20~50%が理想であるため、エアコンや除湿機を使用して、プリンター周辺の湿度を適切に管理することがおすすめです。
さらに、湿気を吸収したフィラメントは、プリント品質の低下、ノズル詰まり、フィラメントの脆さを引き起こします。これらの対策としては、乾燥機を使用してフィラメントを乾燥させるのが効果的です。乾燥機がない場合は、オーブンを用いて低温(約40~50℃)で数時間乾燥させる方法もありますが、素材や色に影響を与える可能性があるため注意が必要です。
食品容器を3Dプリンターで造形するのはNG
PLA樹脂は生分解性で安全な素材ですが、3Dプリンターで食品容器を作ることにはいくつかの問題があります。
家庭用3Dプリンターで作製された食品容器は微細な層状の構造を持ち、これらの層には微小な隙間があるため、細菌が繁殖しやすい環境を提供してしまう可能性があります。このため、食品に直接触れる容器としては衛生的に適していません。
また、3Dプリンターのノズルやベッドの表面には、以前のプリントからの残留物や汚れが付着している場合があり、これらの汚れが新たにプリントされる食品容器に移り、衛生問題を引き起こすことがあります。
さらに、3Dプリンター自体が食品用の安全基準を満たしているわけではなく、使用されるフィラメントも食品用の規格を満たしていないことが多いです。また、3Dプリンターで使用されるフィラメントには、安定性を向上させるための添加剤や着色料が含まれている場合があります。これらの化学物質が食品に移行するリスクがあるため、安全性が保証されていないフィラメントを食品容器に使用することは避けるべきだと言えます。
3D-FABsでPLA樹脂と他の材料を比較シミュレーション
PLA樹脂は、環境に優しい植物由来の素材であること、低温で溶融しやすくプリントが簡単であること、寸法精度が高く美しい仕上がりが得られることなどから、3Dプリントにおいて非常に人気のある素材です。
学べる見積サイト・3Dプリントソリューション「3D-FABs」なら、PLA樹脂はもちろん、その他のさまざまな素材や造形方式によるシミュレーションや試算といったサービスも無料で受けられます。概算費用がWeb上ですぐに試算できるだけでなく、3Dプリンターをより効果的に利用するためのノウハウや、導入にあたっての「よくある疑問」の回答を通じて学ぶことができます。
「3D-FABs」についてさらに知りたい方は、「学べる見積サイト・3Dプリントソリューション『3D-FABs』とは?その活用ポイントに迫る」を、実際の操作については「『3D-FABs』を使えば、誰でも3Dプリンターのノウハウを学べるのか?? 初心者ライターが検証」をご覧ください。
「3D-FABs」を活用して、PLA樹脂だけでなくその他の材料も含めて造形物のシミュレーションをしてみませんか?
写真/Getty Images