建築業界、医療業界、宇宙航空業界とさまざまな業界で3Dプリンターの活用が進みつつあります。ここでは3Dプリンターの基礎知識から最新動向まで紹介します。
3Dプリンターとは?
3Dプリンターは、3次元データから直接物理的な立体物を造形する装置です。
CADソフトなどを用いてコンピューター上で設計された3Dモデルをもとに、3Dプリンターが層ごとに材料を積層させて造形していきます。
この仕組みから、内部に空洞を持つ構造や、複雑な形状、一体成形の立体物を作ることを得意としています。
3Dプリンターでできること
3Dプリンターは、金型や工具を使用することなくデジタルデータから立体物を造形できます。小ロットでの生産に向いているほか、業務用3Dプリンターは家庭用と比較して高い造形精度を持っていることから、製造業での活用事例が増えています。
3Dプリンターの活用法のひとつが、製品開発の初期段階においてアイデアやデザインを迅速に実物化し、設計の検証や改善を容易にする「プロトタイピング」です。
また、従来の製造技術では実現困難だった複雑なデザインや内部構造を持つ特殊部品の製作、歯形や骨など学術的な人体モデルの製作にも利用されており、工学や医学教育においても重要なツールとなっています。
家庭用と業務用の違い
家庭用と業務用の3Dプリンターは、それぞれ異なる特性と用途を持っています。
家庭用3Dプリンターは、一般的に安価かつコンパクトなものが多く、簡単な操作で使えるため個人の趣味や小規模プロジェクトに適しています。特に熱溶解積層(FDM)方式の家庭用3Dプリンターは、価格も手頃で、初心者にも扱いやすいとされています。
その一方、業務用3Dプリンターは大規模な生産、高品質な出力、多様な材料オプション、高速印刷など、より専門的かつ量産適用を見据えたなニーズに応える性能を持っています。これらのプリンターは1,000万円以上する高価な機種もあり、扱うために高度な知識と技術を要します。
このように、業務用と家庭用の3Dプリンターは造形可能なサイズ、印刷にかかる時間、出力精度、扱える材料の種類など、多くの面で違いがあります。どんな種類の素材を使うかは、「3Dプリンターで使用できる素材は?特性や選び方まで解説」で説明しています。
業務用の3Dプリンターについて、さらに知りたい場合は「業務用の3Dプリンターとは?「3D-FABs」を使うメリット、できることまで解説」「業務用3Dプリンターの値段は高い?選ぶポイントや導入にかかる費用を紹介」をご覧ください。
3Dプリンターの造形方式
3Dプリンターにはいくつかの造形方式があります。ここではその代表例を見ていきましょう。
光造形方式
光造形方式は、紫外線や可視光線を利用して、液体の光硬化樹脂を層ごとに固めていく仕組みです。この方法は3Dプリンティング技術の中でも古くから存在していますが、最近では制御技術の進歩により滑らかな表面を造形できることから、改めて脚光を浴びています。光造形3Dプリンターの基礎知識については「光造形3Dプリンターとは?基礎知識を解説」をご覧ください。
熱溶解積層(FDM)方式
熱溶解積層(FDM)方式は、溶融した樹脂を層状に重ねて形成する仕組みです。
製品の強度が高く、多種多様な熱可塑性樹脂を利用できるため、最終製品に近い試作品の製作に有効とされています。
これまで積層過程での痕跡が目立つことが欠点とされていましたが、最近では技術の進歩により積層痕が目立ちにくいFDM方式の3Dプリンターも登場しています。
インクジェット方式
インクジェット方式は、液状の材料をインクジェットプリンターのようにノズルから噴射して特定の波長の光で液体樹脂を硬化させ、層を重ねていく仕組みです。
多色印刷や複数の材料を同時に使用することが可能で、複雑なカラーモデルや異なる物性を持つ複合材料の造形物の製作に適しています。
粉末焼結積層(SLS)方式
粉末焼結積層(SLS)方式は、粉末状の樹脂や金属を高出力レーザーで焼結し、層を形成する仕組みです。
強度、耐熱性、耐久性に優れているため、最終製品や鋳型の製作に適した方法とされています。また、最近では、150度以上の高温に耐えられる素材も開発されており、自動車のエンジン部品や医療機器など、高温環境や特殊な状況下で使用する物の造形にも適していると言われています。
「3Dプリンターにはどんな種類がある?造形方式や選び方のポイントを紹介」では、3Dプリンターの選び方について解説しています。また、造形方式による強度の違いは「3Dプリンターの造形物の強度はどれくらい?造形方式や材料から解説」で、強度を高める方法もあわせて解説しています。
業務用3Dプリンターの最新動向
業界ごとの業務用3Dプリンターの活用例を紹介します。
建築業界
建築業界では、3Dプリンターで建物や構造物のコンポーネントを製造する取り組みが進んでいます。これにより、建設コストの削減、効率の向上、デザインの革新が実現しています。
また、風洞実験における都市モデルの作成にも、3Dプリンティング技術が有用です。
風の影響を物理的に理解し、製品や建築物の設計を最適化する風洞試験は、自動車、新幹線、航空機などの設計だけでなく、オフィスビルや商業施設などの建築においても重要なプロセスとなっています。
オリックス・レンテックでは、建築の風洞実験に必須となる都市モデルを3Dプリンターで造形し、提供しています。
「精緻な都市モデルの造形で、風環境シミュレーションの自動化に貢献。3Dプリンターが建築業界の効率化に寄与する大いなる可能性とは」で紹介している事例では、国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデル「PLATEAU」(※)から提供される都市の3Dデータを3Dプリンターに適したデータに調整し、3Dプリンターで都市モデルを造形した様子を紹介しています。
都市モデルは、これまで職人による手作業で作られてきましたが、二次元のデータをもとにしているため、地形の起伏やビルの凹凸など細かな再現が難しいという課題がありました。しかし、3Dプリンターによって3Dデータに基づいた忠実な再現がなされたことで、実験結果の信頼性が大幅に向上しました。
今後、都市の構造や建築物に変更が入ったとしても、3Dデータを修正すればすぐに新しい模型を造形できることもメリットとなります。
(※)出典:国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/plateau/)
医療業界
医療業界でも3Dプリンティング技術は活用されています。
主に医療分野での安全性が確認されているTPE樹脂(熱可塑性エラストマー)を用いて、患者固有のニーズに合わせたインプラントや義肢、外科手術用の練習モデルの造形に利用されています。3Dプリンターで使用できる樹脂の種類やメリット、選び方のポイントなどについては「3Dプリンターで使用できる樹脂の種類と選び方をご紹介!」をご覧ください。
小規模生産かつ高速な生産ができる3Dプリンターの特性は、患者や医療従事者のフィードバックを取り入れながら、安全性と有効性を迅速に確認することを可能としています。医療業界での3Dプリンターの活用をより詳しく知りたい方は、「医療現場における3Dプリンター導入のメリットと活用事例」をご覧ください。
宇宙航空業界
宇宙航空業界でも3Dプリンティング技術は活用されており、研究開発期間の短縮、コストの削減、複雑な形状の部品製作など、さまざまなメリットが生まれています。
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も、H3ロケットのジェットエンジン開発や国際宇宙ステーション内での実験に3Dプリンターを活用。これにより宇宙空間での機材トラブルに対し、その場で代替パーツを造形できるようになることを目指しています。
オリックス・レンテックでは、航空機部品などの大型3D造形を得意とするXi’an Bright Laser Technologies Co., Ltd.(本社:中国陝西省西安市、CEO:薛蕾、以下「BLT社」)の製造する金属3Dプリンターの国内販売権を取得し、販売とレンタルを開始しました。
BLT社は、アジア唯一(※)のAirbus(エアバス)社認定金属AM(アディティブマニュファクチュアリング)部品サプライヤーであり、航空機部品の受託造形を担えるほどの機器を有しています。また、金属3Dプリンターは幅広いラインアップを揃えており、研究開発用の小型試作から、自動車・航空産業をはじめとする量産や大型部品製造まで、お客様のニーズにお応えします。
BLT社の3Dプリンターについて詳しく知りたい方は、「金属3Dプリンター世界大手 BLT社製品をオリックス・レンテックにて取り扱い開始 装置の販売/レンタル、造形出力サービス対応」をご覧ください。
(※)2024年1月時点
3Dプリンターでの造形をはじめるなら、3D-FABs
業務用3Dプリンターは、その高度な柔軟性と多様性から多くの産業で革命的な変化をもたらしています。
建築、医療、宇宙航空といった高い信頼性が求められる分野でも、すでに3Dプリンティング技術は新しい製造手法として定着しつつあります。
これから、3Dプリンターを導入したい方に向けて、オリックス・レンテックでは、機器の使い方の支援や機器の選定のアドバイスを行っております。導入したい機器が決まったら、まずはオペレーティングリースで試してみてはいかがでしょうか。
また、出力したい3Dデータがある場合は、学べる見積サイト・3Dプリントソリューション「3D-FABs」をご利用ください。手元にある3Dデータをアップロードすると、オリックス・レンテックが培ってきたノウハウをもとに、AIが自動判定して、造形や造形姿勢の改善点をアドバイスします。
造形にかかる概算費用もその場で分かるので、出力サービスを利用したい場合にもおすすめです。
「3D-FABs」についてもっと知りたい場合は「学べる見積サイト・3Dプリントソリューション『3D-FABs』とは? その活用ポイントに迫る」、実際の操作は「『3D-FABs』を使えば、誰でも3Dプリンターのノウハウを学べるのか?? 初心者ライターが検証」をぜひチェックしてください。
3Dプリンティングの持つ無限の可能性は、これからも多くのイノベーションを生み出し続けるでしょう。
写真/Getty Images